アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の最高傑作
今年のアカデミー作品賞受賞の「スポットライト」とどっちが面白かったかと聞かれれば、ハッキリ言って「レヴェナント」の方が格段に面白かったし、イニャリトゥ監督作品の中でも出色のできだったように思う。
静謐な場面も激しいアクションシーンも全篇エネルギーに満ち溢れているがけっして騒がしくなく、濃厚だが詩的でクリヤーな時間が流れていく。
極めて特徴的なのが、エマニュエル・ルベツキの殆ど自然光だけ(らしい)による撮影と、坂本龍一の重層的な音楽の織りなす映像の凄みである。
観る側は撮影が自然光だけかどうかなんてわかるはずもないが、観客に意図的に意識させる映像は、俯瞰のテレスコープのクレーンから降り立ち激しい戦闘シーンを滑らかな動きで追うステディカムや、そして息遣いも荒いクローズアップの手持ちカメラは、出演者の息がレンズにかかり白く曇ることさえ利用していく計算されたふてぶてしさは、あきれるほどに革新的だ。
我々はカメラを意識させられるが、同時に体験するかのごとく振る舞うカメラの視点に我を忘れ、この映像世界を実体験するのである。ルベツキのマジックだ。
結果的にアカデミー撮影賞3年連続受賞という未だかつてない快挙となった。
単純なストーリーのようだが、テーマは深く複雑だ
強欲な市場原理が先住民たちの精霊信仰の英知を消し去っていく時代を背景に、最愛の子を殺された父の復讐劇が繰り広げられるが、ふりかざすテーマはない。
物語を凄まじい映像でひたすらに紡いでいく中から立ち上ってくるのは、現代に生きる我々の過ちと脆弱さであるかのようだ。
映像の生々しさは観ている私たちに浸食してくるほどリアルに迫り、今そこで起きている映画の全ての事柄が、現代に生きる私たちに直結しているが如く強烈な力に溢れている。
すべての演者がそこに生きて存在していた。
映画が目指すリアリティの、奇跡のような到達地点だ。
レオナルド・ディカプリオの演技はこれ以上ないものであり、アカデミー賞受賞は当然の帰結だった。授賞式のディカプリオの意外なほどの落ち着きぶりが今ならよくわかる。自信もあったのかもしれないが、全身全霊でやりきったことの答えやご褒美は、もはやさしたる意味を持たなくなっていたのかもしれない、と想像してしまうほどに彼の演技は演技を超越していたように見えた。
MY評価:☆☆☆☆ 2015/2016公開 アメリカ 156min 原題/The Revenant(帰ってきた人) 製作・監督・脚本/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 撮影/エマニュエル・ルベツキ 音楽/坂本龍一、アルヴァ・ノト キャスト/レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ 第88回アカデミー賞受賞 監督賞、主演男優賞、撮影賞 ノミネート 作品賞、衣装デザイン賞、編集賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、 音響編集賞、視覚効果賞、美術賞 その他多数