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映画「ノマドランド」思わず人生を振り返る?


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じつに様々なことに思いめぐらしてしまった。

人は何のために生きるのだろうか……などという究極の問さえ浮かんでくる始末。

あげくに、今までの自分の人生はこれで本当に良かったのだろうか……

なんて、ふっと思っている自分に気がつき、慌ててしまう。

ノマドとは英語で遊牧民とか放浪者という意味だという。

新しいワーキングスタイルにノマドワーカーというものがあるらしい。

世界は広いし、自分をとりまく制約は自分で取捨選択する自由があるはずだ、という生き方には妙に説得力がある。

時代はやはり常に巡っているのだろうか。

いつの時代もどの土地でも放浪の民はいたはずだが、この現代でさえ形を変えて在り続けるのだろう。

映画はドキュメンタリーを見ているような気になるほどすべてが自然でリアルだ。まるでドラマの登場人物たちの生活を覗き見ているような錯覚にとらわれる。

三度目のアカデミー主演女優賞受賞の可能性があるフランシス・マクドーマンドの抑えた演技は究極のリアルを体現し、観る者を否が応でも引きずり込んでいく。(なんと!三度目を受賞してしまった!)

ノマドが象徴する自由とか解放は、本来の人間らしさの必須条件ではあるものの、それは同時に強烈な孤独の覚悟が試されると映画は示す。

全編を彩るアメリカの広大な荒野の描写は、ノマドの人びとや生活を見守るクロエ・ジャオ監督のやさしいまなざしが詩情溢れる映像となり、美しく輝いていた。

2021/4/13

MY評価:☆☆☆☆

2021年2月19日アメリカ公開/3月26日日本公開 108min 制作アメリカ 

原作 ジェシカ・ブルーダー「ノマド 漂流する高齢労働者たち」
制作 フランシス・マクドーマンド 他
監督/脚本/編集 クロエ・ジャオ
撮影 ジョシュア・ジャームズ・リチャーズ

キャスト
フランシス・マクドーマンド
デヴィッド・ストラザーン  リンダ・メイ  シャーリーン・スワンキー

2021年 第93回アカデミー賞 作品・監督・主演女優賞受賞、編集、脚色、撮影ノミネート  他多数受賞



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映画「ハドソン川の奇跡」しみじみと観て良かった!

クリント・イーストウッド作品、今回は特に良い出来

簡潔にして充分な満足感を味わうことが出来る。

無駄を省いた演出が実に気持ちの良いものだということが、これほどよくわかる映画もない。

と言っても、ストーリー構成はなかなか複雑で手が込んでいる。ただ、それをとてもスマートに展開させていく脚本と演出が大したもので、唸るしかない。

イーストウッド作品、やっぱり今回も傑作だった。

アカデミー賞候補も間違いないところだろう。

アメリカの良心がテーマだけに、作品賞はかたいところか。当然監督、脚色(原作ありのため脚本ではない)、そしてトム・ハンクスの主演男優、アーロン・エッカートも望外に良くて助演男優、というこの辺りの候補が有力だ。中でも一番有力な受賞候補は脚色かもね。大作ではないので、脚色賞一つということもある。ついでに言うと、意外にいい加減なアカデミーなので、原作がありながら脚本賞としてノミネートされるということもあるけどね。そして、もしいい風が吹けば5部門すべて受賞もあるかもだ。

来春のお楽しみ。

MY評価  ☆☆☆☆

2016年   アメリカ   96min   原題/Sully

製作/監督   クリント・イーストウッド
脚本      トッド・コマーニキ

キャスト    トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー
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映画「サンドラの週末」しみじみ身につまされる秀作

生活が崩壊するリアルな恐怖

この映画の中の生活環境では、失職イコール基本的な生活の崩壊に繋がることを意味していた。

他を探せばいいという話ではない。

もし自分がその立場になったなら…

次第に主人公サンドラの気持ちに感情移入していく。

彼女が泣いたり、気分が悪くなったり、死にたくなったりする感情がそのまま伝わってくるようで、こっちまで胸が苦しくなってくる。

映像に重なる効果音やバックグラウンドの音楽は皆無だ。あるのはカーラジオから流れてくる音楽だけの演出は、まるでドキュメンタリーを見ているような錯覚におそわれる。

綿密に計算されつくした脚本と演出は、単調になりかねないストーリーをサスペンスフルで緊張感に満ちた世界へと導く。

気持ちがじりじりしてくる。

いったいここで何が試されているというのか?

言ってみればどの選択をしても人それぞれの都合があるし悪いという事はない。期せずしてみんなが試させられたのは、自分がこれから先何を大切にしてどのように生きていくのか、ということであった。

みんな一人一人が苦渋の選択を迫られる。観る側は登場するあらゆる人の立場に立つことになる。その違いに一々気持ちは揺れ動き当惑するのだ。

人にとって大切なものとはなんだろう?

時として人は重大な決断を迫られることがある。

どの道を選ぶのか。

選んだ理由がその人の価値を決めていく。

何を大切にしたのか。

選ぶとき何かを守り、何かを捨てなければならない時がある。

その時に何を守ったのか?

何を捨てたのか?

人をつくっていく瞬間が

そこにある。

MY評価:☆☆☆☆

2014/2015公開   ベルギー/仏/伊 合作   95min   

原題/Deux jours, une nuit

製作・監督/ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ

キャスト/マリオン・コティヤール、ファブリツィオ・ロンジョーネ

アカデミー賞:主演女優賞ノミネート
 英国アカデミー賞:外国語映画賞ノミネート
 セザール賞:主演女優賞・外国語映画賞ノミネート
 ヨーロッパ映画賞:女優賞受賞、脚本賞・観客賞ノミネート
 放送映画批評家協会賞:主演女優賞・外国語映画賞ノミネート
 全米映画批評家協会賞:主演女優賞受賞
 ニューヨーク映画批評家協会賞:主演女優賞受賞
 ボストン映画批評家協会賞:主演女優賞・外国語映画賞受賞
 ベルギー・アカデミー賞:作品賞・監督賞・主演男優賞受賞
 シドニー映画祭グランプリ受賞
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映画「おみおくりの作法」どんな人にも想い出はある!

これが映画、これぞ映画!

孤独死の多くは誰ひとり居ないお葬式…

人は死んでしまうと、死んだその時で時間が止まってしまうが、

止まった時間の後ろ側に、その人の過去がある。

幾重にも重なり連なる時間の過去がある。

どんな人にも人生があり、自分が主人公の過去があり想い出がある。

たとえ死んでしまったとしても、

過去は誰かの中で思い出となって生きていく。

きっと、この監督はラストの素晴らしきあの映像に思い至り、そのシーンを撮りたいたがためにこの映画を撮りたかったのだろう、と。

ラストシーンの成功は、ありえないかもしれないストーリーを、あり得る話しとして納得させたのだ。

それが映画。

これぞ映画!

MY評価:☆☆☆★★★
2013/2015公開   英/伊 合作   91min
原題/Still Life
スタッフ  製作・監督・脚本/ウベルト・パゾリーニ
キャスト  エディ・マーサン


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映画「縫い裁つ人」映画というよりコミックなら良かったのに

映画というよりコミックなら良かったのに

と思ったら原作は池辺葵のコミック『繕い裁つ人』だった。

そのことを知って、納得した。

映画が多用する思い入れたっぷりな演出とカメラワークは、コミックの自由な世界では実に効果的な手法となるが、映画では現実が足かせとなって中途半端になってしまい、作為が際立つ結果になった。

良いシーンもいくつかあるが、全てが点となって散漫で物語性が弱い。

優れたイメージは瑞々しく表現されることもあるが、シーンの全体は感情に流れ過ぎた演出により、結局独りよがりの印象だ。

ところどころに心を動かされるシーンがあるだけに残念だった。

MY評価:☆☆☆★

2015公開   104min   配給/ギャガ
スタッフ  監督/三島有紀子、脚本/林民夫、原作/池辺葵『繕い裁つ人』
      衣装デザイン:伊藤佐智子
キャスト   中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、黒木華
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映画「この自由な世界で」不法だからって何が悪いの?

不法就労斡旋業に手を染める人間って、どんな人?

ごく普通の、ちょっと負けん気が強くて、少し野心もあって‥‥

そして、目の前に可哀そうな人がいたから、つい助けたくなっちゃうような、そんな普通に善良な人が…

そんな人間が自分の不運不幸に負けずに頑張ることが、少しだけ違法だったり、倫理に反することだったりする場合。

それは、今まで自分が理不尽な社会制度にやられたい放題やられ続けていたことを、少しだけやり返してるだけ。

何とか世の中の不公平な仕組みと戦っているだけ…だったとしたら…

映画の彼女は思う。
一人で子供を育てながら、必死に生きているだけなのに、なぜお父さんは私を責めてばかりで誉めてくれないのだろうか?こんなに一生懸命世間と戦いながら生きているのに!ナゼ‥‥わからない‥‥わからないから少しづつ道を外れていく‥‥道を外していくことを自覚しながらその道を選んでいる自分がいる。気付いたら、思いがけないところまで深入りしてしまったけど、今となってはもうこの道を行くしかないのだ。

ケン・ローチ監督の人間を観る視線が優しい

決して短絡的に悪を断じたりもしないし、かと言って弁護もしない。

なぜなら悪は悪だから。

但し、理由はあるんだよ、と静かに話すのだ。

社会悪の仕組みとその関係性はごく普通の何処にでもいる人間をからめとっていく。その有様を静かに描いていくだけだ。

ケン・ローチ監督の見守る視線が優しい。

MY評価 : ☆☆☆★★★
2008年公開  英/伊/独/スペイン/ポーランド合作  96min  
原題/It's a Free World...
監督/ケン・ローチ、脚本/ポール・ラヴァーティ
キャスト/カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス
第64回ヴェネツィア国際映画祭/金オッゼラ賞(脚本)受賞。
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映画「マリリン&モナ 踊って、泣いて、輝いて」しみじみといい映画

原題は「Just Like a Woman」邦題はだいぶ違うけど、これでいいかなって思う。

特にドラマティックでもなく、多少の盛り上がりが幾つかあるだけなのだが、むしろ控えめな演出と演技がかえってリアルで本質に迫る。

ごく普通のマイノリティの女性、っと言ったらおかしな言い方かもしれないが、この映画の主人公はそういったことだ。「Just Like a Woman」。

ありふれた不幸とちょとした運の悪さが重なったりでのっぴきならないことになるが、そんな彼女たちの明日の未来をそっと見守るように映画は終わっていく。

好感の持てる作品。

MY評価 : ☆☆☆★★
2012年未公開/2015/10/wowow   米/仏/英合作   87min
原題/Just Like a Woman
原案/監督/脚本/ラシッド・ブシャール
キャスト/シエナ・ミラー 、ゴルシフテ・ファラハニ