つくっちゃいけない映画もある
全く救いの無い映画の代表的傑作「セブン」からまるまる触発されたことはわかり過ぎるほどで、実は観る前から嫌な予感はあった。そして観た後では予感以上の嫌悪しか残らなかった。これは、コミックの原作と演出の共同作業で犯した酷い間違いなのだ。
「セブン」の世界観に似すぎてはいるが、あまりにも似て非なるものになってしまった。
しかし良いところもある。俳優たちの情熱と存在感のある演技はこの映画をどれだけ救っていることだろう。それだけで映画を引っ張っていたと言ってもいいぐらの印象だ。
猟奇的連続殺人事件という映画のジャンルとして確立している王道サスペンスなのだが、どれほどシリアスなドラマを背景に持ってきても、いずれも類型的過ぎて説得力やリアリィーが決定的に欠けてしまっている。犯人の行動の目的が「作品作り」で、その理由が幼い時の「トラウマ」で、自分の「ミュージアム」を作るという一見奇抜な発想も見事に陳腐にならざるを得ない。だがそこは原作の設定なのだから、監督はその上で何か自分なりの思いや世界が無ければ映画を作る意味がない。この映画を観た後に思うことは、この監督は何も言いたいことが無かったのだろうというのが率直な感想だ。まあ、そうとしか見えなかったことが問題なのだろうが……。
であれば、むしろホラー映画に徹底すれば良かったのだが、何かを言おうとしているつくりなので結果はイメージを追いかけただけの印象となってしまった。
そうなると趣味の悪過ぎるコメディーならぬ、えげつなさに彩られたシリアスで楽しめない娯楽映画ということだけが残ってしまったのである。
MY評価 ☆☆☆(小栗旬の好演でオマケ評価) 2016年公開 WB配給 132min 監督/脚本 大友啓史 キャスト 小栗旬、妻夫木聡、尾野真千子、野村周平