ひたすら一途に、綱渡りに人生を、命を懸けた男の物語
今は亡き、ツインタワーと言われたワールドトレードセンターにワイアーを掛け、綱渡りをする。
あまりに突拍子もなく馬鹿げた思いつきが、いつしかそれはチャレンジとなり、見果てぬ夢は現実性を帯びてゆく。
ひとり、ふたりと周りの人々が彼の情熱の磁力に引き寄せられていく。
この物語は、1974年に実際に起った本当の話しだ
初めてそのニュースを聞いた時には一人の所業のイメージしかなかったが、映画を観ると成程こんなことはたった一人で出来るはずもなかったのである。
この映画のポイントは、何故彼等彼女は自分たちが犯罪者として逮捕されるかもしれないのに、最後まで協力を惜しまなかったのか?という事だろう。
協力者の一人は高所恐怖症である。何故彼は犯罪者になるどころか、文字どおり命を懸けることになってまで彼に協力したのだろうか?
そもそも主人公の彼は何故に命綱を使わない綱渡りをするのか?
そこに山があるからと言った高名な登山家の言葉を思い出す。この登山家は「Because it’s there」と言ったそうだ。文脈からだと「そこにエベレストがあるから」となるところを日本ではいつしか「そこに山があるから」になったという。エベレストという固有名詞が「山」になるといきなり哲学的な様相を帯びていくのは極めて日本的といえるが、でもどちらでもいいような気もする。そこに世界一高いツインタワーがあったからなのかもしれない。
この綱渡り師も周りの協力者達も、みんな何かに憑りつかれたかのように夢中になっている。ものすごく困難なことだからとても大変そうだが、同時にとても幸せそうだ。まるで困難だからこそ幸せだと言わんばかりに。目標は生き甲斐となり、達成した時、それは至福の一瞬となり、今までの苦労のすべてを凌駕するのだ。
馬鹿げているからこそ、際立って見えてくるものがある
人生に意味を求める必要なんかないのだろうか。
人生とはシンプルなものでいいのだろうか。
生きている充実感さえあれば、何をしていてもその人は幸せだということなのか。
何をの何は、ノーベル賞を獲るような研究でも、全く人の役に立たないことでも、何でもいいのかもしれない。
何故なら、ただの綱渡りだ。
もし失敗していたら、命を落とす上に更にただの愚かな犯罪者となり、馬鹿げた事件としていつしか忘れさられていくだけのこと。
しかし、結果はどうであれ彼等の挑戦は、確かに彼等を幸せにしたことに間違いはない。
そして、その辺りに、どうやら人生の秘密が隠されているような気がしてならないのでだ。
MY評価 ☆☆☆★★★ 2015/2016 アメリカ 123min 原題/The Walk 監督・脚本 ロバート・ゼメキス 原作 フィリップ・プティ『マン・オン・ワイヤー』(白揚社) 撮影 ダリウス・ウォルスキー キャスト ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、 シャルロット・ルボン